鷹の訓練(2)

鷹を呼び戻す訓練は、最初はヒモをつけて行います。

鷹の足に5メートルくらいのヒモを結びつけて、
外の止まり木に止め、近くでえさを見せながら呼んでみます。




飛びたって腕に戻るようになったら、もっと長いヒモをつけて次第に遠ざかり、
最後にはヒモなしでも必ず鷹匠のもとに戻るように訓練します。
鷹はヒモをはずしてしまえば一羽の自由な鳥。
どこへでも飛んでいくことができます。


ここでひとつでも失敗すれば、育てあげた鷹は永久に戻ってこないかもしれません。
事実、わたしもこの訓練の途中で鷹に逃げられ、
後悔と絶望の思いにかられながら、二日間雪のなかを探し回ったことがあります。
「呼び戻し」は、鷹匠技術のなかでも極めて重要なものなのです。



鷹が確実に腕に戻ってくるようになったら、獲物に飛びかかることを覚えさせます。

ウサギの皮や生きたニワトリなどを使って、
獲物への本能的な衝動を最大限に発揮する状態へもっていきます。

弟子入りしていた当時、この訓練では非常に痛い経験をした思い出があります。

わたしがヒモをつけたウサギの皮を引いて雪の上を走りはじめると、
師匠が小高い丘の上から「吹雪」というオスのクマタカを放ちました。

吹雪はすごいスピードで斜面を落下するかのように、
一直線にこちらに向かって飛んできました。
わたしは雪の上を走りながら、途中でなにげなく吹雪を振り返りました。
すると吹雪の目が、おとりのウサギの皮ではなくわたしの方を見ているようなのです。
一瞬いやな予感がしました。

はたして数秒後、吹雪はウサギの皮などにはまったく目もくれず、
わたしに猛然と襲いかかってきたのです。
クマタカの5センチほどもある鋭いツメでやられたらたまったものではありません。

わたしはとっさの判断で顔だけはかくしたのですが、
吹雪は、わたしの背中にその両足のツメを深々とつきたてたのです。



幸いジャンパーやセーターなど厚着をしていたので大きなケガは
しませんでしたが、それでもあの恐怖は相当なものでした。

あとで師匠から
「こんなことはよくあることだ。
 しかし鷹が失敗しても犬や猫のようになぐったりしてはいけない。
 もしそんなことをすれば、鷹は二度ということをきかなくなる」といわれたとき、
野生を相手にする厳しさに身が引き締まる思いでした。


2002年6月13日
松原英俊

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