雪下ろし

わたしが住んでいる田麦俣は日本有数の豪雪地です。

多い年には4メートル半も積もります。
今年はそれほどではありませんが、屋根の雪降ろしはやはりたいへんです。




今は2月中旬ですが、もう6回も降ろしています。
1回で7、8時間かかりますから、1日でやるのはかなりきつくて、
だいたい2、3日かけるようにしています。

雪は上のほうは軽くて最初は楽なのですが、下にいくほど重くしかも硬くなりますし、
屋根の中央にいくほど遠くへ投げ飛ばさなくてはなりませんから、
最後はほんとうに疲れてしまいます。


雪降ろしでは怖い思い出があります。
わたしはここ田麦俣に移る前に、
同じ朝日村ですが、鷹匠山のふもとの山小屋に住んでいました。

その山小屋のとなりには大きな鷹小屋があって、
わたしはある日、その屋根のいちばん高いところ(8メートルもあるのです!)に登って
雪降ろしを始めました。

ところがその日は気温が高くて雪が滑りやすい状態だったのです。
スコップで雪を掘っていると突然足もとの雪が滑って、
あっという間にわたしも雪といっしょに滑り落ちてしまいました。

鷹小屋のまわりは深い沢になっていて、
屋根の頂上からその沢まで15メートルくらいの高さがあります。
その周囲には太い木があったり木の切り株があったりしますから、
とても危険なわけです。

ですから、死ぬとまでは考えませんでしたが、
下手をすると大けがをするかもしれないと思いながら落ちていきました。

幸いにも沢の上に落ち、やれやれと思ったのですが、
それもつかの間、こんどは屋根の雪がわたしの上にどさっと落ちてきて、
完全に雪の下敷きになってしまいました。
鼻も口も雪にふさがれ、わたしは窒息死するかと思いました。

まわりには誰もいませんし、
からだを動かそうにも足はぜんぜん動かせず、
左手も伸ばした状態のままピクリともしませんでした。

ただ幸いにもわたしがこうして生きていられるのは、
右手だけが少し曲がった状態で、しかもあお向けになって落ちたので、
かろうじて動かすことができたからです。

その右手を必死で動かすうちに雪の上に突き出すことができ、
顔の雪をかいてようやく息がつけたのです。

ときどき登山者が雪崩の下敷きになって亡くなったという悲報を耳にしますが、
いったいどれくらいの雪がかぶさると助からない状態になるか、おわかりでしょうか?

たったの30cmの雪なのです。



2002年3月3日
松原英俊

コメントは下のボタンを押して別ウィンドウから投稿できます。